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福岡地方裁判所小倉支部 昭和30年(ヨ)192号 決定

申請人 進東幸 外二〇人

被申請人 古谷博美

主文

被申請人が昭和三十年八月二日、申請人等を小倉炭鉱第二抗勤務から第三抗勤務に配置替した意思表示の効力を停止する。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

申請人等は「被申請人経営の小倉炭鉱第二抗に勤務する鉱員であることを仮に定める」との裁判を求め、

その理由の要旨は

(一)  被申請人は小倉炭鉱の名で石炭採掘販売を業とし、同炭鉱は小倉市足原大畠に第二抗を、同市三萩野に第三抗を有する。

申請人等はいずれも右第二抗に所属する直接夫たる鉱員であるところ、被申請人は昭和三十年八月二日申請人等を右第二抗から第三抗勤務に配置替する旨意思表示をした。

(二)  小倉炭鉱の鉱員は昭和二十一年以来全員を以て小倉炭鉱労働組合(以下第一組合という)を組織していた。

昭和二十九年十二月賃金問題について被申請人と争議が起りこれに関連する粉争継続中被申請人は昭和三十年六月二十八日第一組合の執行部中副組合長を除くその余の全員等組合員十三名を解雇したので同組合はこれが解雇撤回を要求して争議状態に入り間断的に時限スト、保安遵法闘争並に事務所前坐込み等の争議行為を行つていたところ、同争議に反対する一部組合員は第一組合を脱退して別に小倉炭鉱々員組合(以下第二組合という)と小倉炭鉱再建労働組合(以下第三組合という)を組織し右争議から脱落した。組合員数は第一組合九百四名、第二組合百九名、第三組合二十三名である。

(三)  第一組合に於ては組合執行部を中心とする組合活動の外各職場毎に職場会議、職場委員会等を設け組合員五人に一人の比率を以て職場委員を選任しその互選を以て職場委員長、同副委員長等を置き、又青年組合員を以て青年行動隊、職場青年部を組織し組合活動をして来た。申請人等はいずれも第一組合に属し別紙記載の組合の役職の地位にあつて平素から活溌な組合活動を行つて来たが、前記組合執行部の大部分が解雇せられて直接夫が稼働している坑内に入坑することができなくなつた後は同執行部に代つて第二坑の各職場に於て組合の指導的役割を果して来た。殊に申請人等の勤務する第二坑は小倉炭鉱の主要坑で直接夫約六百名を擁し同炭鉱直接夫の過半数を占めており、被申請人はその職制を通じて第一組合を切崩し第二、第三組合の勢力を増大しようとするので申請人等はこれが防壁として活躍して来たのである。申請人等が第二坑を去れば同坑に於ける第一組合の組合活動は著しく阻害せられ被申請人や第二、第三組合の切崩しに蹂躪せられる虞がある。

(四)  これに反し第三坑は直接夫僅か八十二名の小さな職場であり、組合活動家が多数集つて活動してもその効果は微々たるものに過ぎない。

而も申請人等は第二坑を離れることにより、職場委員たる資格を喪失してしまうので活躍の翼を奪われる訳である。

(五)  従来配置替を行う際には事前に組合及び本人に諒解を求める慣例になつていた。

小倉炭鉱に於ては昭和三十年七月九日第二坑の下五尺層を掘尽して採掘を終了したが、かくなることは以前から判明していたことであり、同個所に稼働していた百数十名の鉱員の配置替については予め組合側と協議して計画するのが条理上当然であるにも拘らずこれをなさず漫然他の各個所に配置替をなしながら、前記解雇撤回闘争の最中第三坑に新個所が出来たとして突如第一組合の組合活動の指導的地位にある申請人等(二名を除き他は全部下五尺層以外の個所に従前から稼働していた者)を選んで配置替したのである。

(六)  以上の諸事情からして右申請人等の配置替は第一組合の組合活動を阻害しその団結力を弱わめるためになされたもので労働組合の運営に介入する不当労働行為であり、何等の効力を生じないものである。

(七)  かく右配置替は無効であるので申請人等は従前通り第二坑に入坑して稼働しようとするのに、被申請人は警備員を用いて暴力を以てこれを妨害し、又入坑しても就労せしめないので賃金を支払われない虞がある。

というにある。

申請人主張の事実は一応疎明せられており、同事実によれば申請人の申請は理由があると認められるので民事訴訟法第八十九条に従い主文の如く決定する次第である。

(裁判官 古賀俊郎 安東勝 平佐力)

(別紙省略)

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